数多くの大手有名企業でマネジャー研修を担当するコーチングのプロ・播摩早苗氏。そんな播摩氏が描く話題のビジネス小説『宿屋再生にゃんこ』では、部下の心に眠る仕事への情熱を引き出す方法が楽しくわかります。ここでは春からの新リーダーに向けて1章・2章を特別無料公開! 毎日連載でお送りします。 

◆STORY◆倒産寸前の地方旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、寮の居候猫が永理子に向かって語り始めて……。

◆10◆

 2章 「なめられるぐらいのマネジャーがええんや」

 

 その日、そろそろと事務所に入ってきて私に話しかけたのは、料飲部門のマネジャー設楽だった。

「あのぅ。実は、仲居が1人辞めると言いました」

 それは珍しい話ではない。

「分かりました。適正人員より多いので、問題ありません」

「本当ですか!?」

「今の人数に合わせてシフトを組んでください」

 設楽の本題はそれではなかったらしく、黙ったまま立っている。

「給料が当社規定になることについて通達してもらえましたか?」

「それは、伝えました」

 設楽は、もじもじしていて、私はイライラする。

「他に何かありますか?」

「……実は仲居たちが、レストランでの配膳をしないと言っています」

 従業員がRSJの方針に異議を唱えることを許しては、今後抑えが利かなくなることは必至だ。

「これは決定事項です。新しいホームページ上ではレストランでの食事と案内しています」

「はあ」

 設楽の反応は、心許ない。

「今、仲居を説得するのが、設楽さんの仕事じゃないですか!」

 宿屋の料飲部門は、煮ても焼いても食えない古参の仲居のるつぼだ。おそらく設楽では睨みが利かないのだ。職場のヒエラルキーは崩壊し、設楽はお使い番のような存在になっているのだろう。

「料飲部門を動かすことが設楽さんの責任です。伝達だけでは困るんです」

 設楽には、私が苛立っている理由がまったく伝わっていないようだった。

「そもそもなぜ仲居が部屋食にこだわるんですか?」

「さぁ……」

「仲居もレストラン食のほうが楽なはずです」

 設楽はただ、首の汗をぬぐうだけだった。

 

 

 

 

 翌日には、アネックスの宴会場をレストランに改築する工事が始まった。青島が、その支出だけは事前に交渉し、鳴海にウンと言わせてからコンサル契約を結んでいた。

 RSJが内装工事を外注している施工会社社長の立花良平が来た。立花は、ひげ面にバンダナを巻いた自由人ふうのいで立ちで、本職はインテリアデザイナーだが、ちょっとした電気設備の修理や建具の修繕は、職人を引き連れてきて一日でやってのける。私が本部にいたときから施設の改築コストについて、いつも適切な見積りをはじき出してくれた。

「エリンギちゃんが突然支配人とは。びっくりの人事だったね」

 立花は、笑いながら鳥楓亭に入り、仰ぐように設えを見まわした。

「いいねぇ」

「ええ」

「経営さえ間違わなければ、残っていく館だ」

 宴会場に案内すると、立花はふすまの寸法を測り始めた。

 ステージまである広い宴会場を、今の畳張りのままレストランに改築し、ふすまをガラス戸に替える計画だ。

「戸や仕切りの一部を色ガラスにして、大正ロマンふうにしてほしいと、本部からの依頼書にはあるけど」

「はい。やってみたいのですが、畳にテーブルという組み合わせはどうなんでしょう」

「そのミスマッチがかえっていいんじゃないかな。施工が楽だし、工期が短くて済むよ。テーブルは紫檀(したん)の猫足なんかがいいんだけど、高いから雰囲気が近いものを用意するね」

 立花は、予算や工期の事情をよく理解してくれていた。

「明かり取りに欄間(らんま)を入れて、焼き物や切子を飾ればいいムードになる」

 立花に任せれば、しゃれたレストランになりそうだった。

「ここで配膳できれば、仲居さんの負担は軽減するね」

「そのはずなんですが……。仲居たちが難色を示しているんですよ」

 いち早く報告してきた設楽の話が頭に残っていた。

「なぜだろうね」

 仲居が、RSJのやり方に早々と抵抗を示した理由は分からない。

「レストランの内装に合うメニューをシェフに考えてもらったらいいよ。ここは料理が売りなんだからさ」

 立花は、帰り際にそう言い残したが、改修が終わるまでに、あの松田が素直に新メニューをつくるとは思えず、厄介な現実が心に重くのしかかった。

 

 

 

 

 予想通り、松田が先鋒だった。その日の午後になって、「8人いる料理人全員が給料の減額には応じない」と告げに来たのだ。

 

 


本日はここまで。明日の公開をお楽しみに!
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播摩早苗『ストーリーで学ぶ最強組織づくり 宿屋再生にゃんこ』

倒産寸前の旅館に支配人として赴任した永理子。黒字化を達成しようと意気込むが、やる気のないスタッフを前に空回りするばかり。そんなとき、一匹の猫が永理子に向かって語り始めた!  「舐められるぐらいのマネジャーがええんや」「あんたがアタマ使えば使うほど、みんなはもの考えなくなるでぇ」「マネジメントは『全部自分のせい』から始めるんや」  なぜかマネジメントに詳しい猫の教えで永理子は自分を変えていき……。ストーリーを追うことでチームマネジメントのポイント、旅館事業の裏側、地域活性化のヒントが楽しく学べる!

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