貧富の差の激しいロサンゼルスでは過保護と育児放棄が二極化する

iStock/Giselleflissak

過保護、アダルト・チルドレン、毒親、子離れ失敗、最近のヘリコプター・ペアレンツ…子育てするなかで生じた不都合に関しては、思えばいろいろなワードが創り出されてきた。これらについて書かれた本や事例を読めば、これらの言葉は、どちらといえば、中産階級以上の収入がある家庭を背景に定義されてきたように見える。

例えば、ヘリコプターペアレンティング*。
テキサスの精神医、アン・ダンネヴォルドによれば、ヘリコプターペアレンティングとはオーバーペアレンティング(過剰な子育て)のこと。子育てに責任を持ちすぎ、子どもの人生に
• 過剰なコントロール
• 過保護
• 過度に完璧さを求める
といったやりかたで関わることだという。

ヘリコプターマムと聞いてイメージするのは、車を運転しつつスマートフォンを駆使、小中高校生の我が子のスケジュール管理をしたり、教師やスポーツチームのコーチに連絡をとったり、ボランティアやインターンを見つけてきたり、勉学や大学入試の情報収集をしたりしながら、テキストで子どもの様子をチェックしている姿である。(ちなみにそういうママの実在は多数確認されています)言うなれば、“子どものマネージャー業”。であるが、そんなマネージャー業が許されるのも、ある程度の経済的余裕があってこそ。

いっぽう、過干渉・過保護であるヘリコプター・ペアレンツの対極に位置するのが、育児放棄や虐待する親たちだ。アメリカでもっとも貧富の差が激しい都市のひとつ・ロサンゼルスでは、ヘリコプター寄りと育児放棄寄り、両サイドへの二極分化が進んでいる。

この二極のうち、ソーシャルワーカーとしての現場では、育児放棄、幼児・児童虐待のケースを扱うことが多い。 これまでの研究は、おおむね家庭の貧困レベルがネグレクトや虐待の発生とやや強い〜強い相関関係にあることを示している。虐待の予防や子どもの保護などを行う子どもの福祉行政局として、ロサンゼルス郡のDCFS**が全米でいちばん規模が大きい(そしてそれでも人手が足りない)のは、何を示唆しているのかは言うまでもない。

だが、これがロサンゼルスで個人と会っている臨床心理セラピストとなると、一転、子育ての問題とそれにともなうストレスの相談——つまり、ヘリコプター・ペアレンツ極の問題——が山のように持ち込まれることになる。

どういうときに相談が来るのか? といえば、子どもか母親に次のような問題が出たときだ。 
• 子どもが不登校、スポーツチームを辞める、などBurned-out***を起こした
• (母親の)子どもへの過干渉が原因で夫婦仲が悪化
• 子どもが鬱状態になったが何も話してくれずどう対応して良いか分からない
• 子どもの進学や進学後のことを考えると、毎日が不安で何も手につかない
• 子どもの学業がふるわない・もしくは成績が急降下

子どもの鬱はじめ精神状態にはもちろん個別かつ迅速な対応が必須になるということをお断りした上であえてざっくり言えば、これらはほぼ母親の問題。

子育てがアイデンティティになっていること、子どものマネージメントが生き甲斐・やりがいになっていること自体が精神的にまったく良い状態ではないので、セラピーの目標は、

お母さんが(自分から)子どものマネージャー業を廃業するようになれること。

ちなみに、あえて卒業とかではなく、廃業という言葉を使っているのは、もうその仕事の需要がないから、事業自体成り立たないから。さらについでに、廃業すると同時に自分のマネージメントに徹して他の新規事業を始められれば、その後の人生もぐっと生きやすくなること請け合いだ。

なぜ、多くの女性が完璧な子育て、母親を目指してしまうのか?

ところで、ここまで、さくっと親→母親と言い換えていますが、それは、問題となるのがたいてい母親であるという事実のため。

毒親、子離れ失敗、ヘリコプター・ペアレンツ等々をめぐる議論が、“親”とは言いながら非難の矛先を向けているのも、やはりほとんどが母親。

母親ばかりが責められるこんな世の中。
Burned-outを起こすほど頑張ってしまっているママたちが「これ以上わたしにどうしろと?」という切羽詰まった気持ちになるのも無理はない。

だがしかし。そもそもの「母親像」「母親がすべきこと」「母親とは」には男性社会からのご都合主義なリクエストが織り込まれたものだとうすうす分かっているにもかかわらず、なぜ多くの女性が完璧な子育て・パーフェクトな母を目指してしまうのか?しまいにはいつ鬱になってもおかしくないほどに。

次回は、アメリカと日本で見えてきた女子の子育て心理について考察を続けたい。


* ヘリコプター・ペアレンティングは子どもに過度に集中しすぎた子育てスタイルのこと。不安障害治療センター所長のDr. キャロリン・ダイチによれば、この子育てスタイルの親は、子どもの経験ーーとくに成功・失敗ーーまで、親に責任があると考えている。アメリカではミレニアム世代(90年代〜2000年代生まれ)の子どもたちが大学に入学する年齢になるとともに、「ヘリコプターママ」という言葉が、大学関係者を中心に爆発的に使われはじめた。

**Department of Child and Family Service 子どもの虐待の通報を受け、子どもの保護、家庭への指導、養子、里親など各種制度と施設・司法機関と連携をとりつつ、子どもの安全と健康を支援するサービスを行っています。

*** 燃え尽き症候群。ソーシャルワーカーは非常にBurned-out率が高い仕事です。

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