富士山の見える町で介護士で働く日奈、海斗、畑中、そして東京のデザイナー宮澤という4人の視点から彼らの人生を描く窪美澄さんの最新刊『じっと手を見る』。読んでくださった書店員さんからは、自分と重ねたり、昔を思い出したり……たくさんの感想が届きました。


伊野尾書店  伊野尾宏之さん
素晴らしかった。
中盤から後半にかけての展開は読みながら体温が高くなるのを感じた。
人が年を重ね、ぼんやりとした夢から逼迫した現実に否応なく向かい合い、若さと情熱が削られていく過程で、それでもなお人に温かく接することのできる人間の美しさを、この小説はあふれるように描いている。
人生はうまくいかない。家族と地元は厄介なものとしてずっとつきまとう。
恋はいつまでも甘くないし、愛は次第に重みに代わる。
海斗も、日菜も、真弓も、宮澤さんも、失ってばかりいる。
若さを失い、家族を失い、恋を失い、家を失い、夢への情熱を失っていく。そしてその多くは我々もまた似たようなものだ。それでもなお我々が生きているのはなぜなのか。
そのことの答えがこのエンディングには込められているような気がする。
「じっと手を見る」で捨てられるとパニックになった裕紀を海斗が手のひらにある生命線を星座としてマジックでなぞって落ち着かせるくだりで泣いた。
窪さんはあのエピソードを創作で考えたのだろうか。あそこはすごいと思った。
いつまでもこの小説は本棚の中に大切な一冊として置かれ続けると思う。

 

ジュンク堂書店三宮店 三瓶 ひとみさん
窪美澄を身近に感じた。色々な意欲作を発表している彼女ですが、オーソドックスなレトロな恋愛映画をみているようなせつなさがこみあげてきた。
地元に暮らす閉塞感、1人でいる寂しさを側にいる人でうめたくなる気持ち、未来のない恋愛とわかっていながらも自分達にないものをもつ人にひかれてぬけだせなくなる。人間の弱さが自然に描かれている。
日奈と海斗の仕事が介護という所が小説の世界をよりリアルにうけとめられた。

 

MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店 勝間 隼さん
窪さんの新刊をずっと楽しみにしていました。
今回の新刊もすごくよかったです。
特に最後の数行で、「人生は寄り道ばかり。 でも、人はいつかきっと帰るべき場所に帰る」、そう思えました。
読めて本当に幸せでした。


ブックポート栗平店  齊藤 愛美さん
窪美澄さん、はじめて読みました。
淡々とした描写にもひどく心動かされ、ハッとさせられることの連続でした。
特に日奈、海斗、宮澤たちの人との距離のとり方。近すぎる関係に耐えられない宮澤と、相手におかまいなく距離を詰めてくる海斗。対照的な二人ですが、彼らの生い立ちと“今”にそれぞれ共感し納得させられ、また『よるべのみず』の日奈と俊太郎のエピソード、なにはともあれ、生きてゆくのだと漠然とした思いにとらわれ、最後の日奈のシンプルな言葉がとても響きました。
とにかく感動しました。

 

BOOKアマノ有玉店 山本 明広さん
富士山が見える街なのに、青い空を背景に壮大に富士山がそびえる姿ではなく、薄曇の空に重しをしたように存在する富士山が見下ろす街というような風景を想像させる物語でした。
地方出身・在住者なら必ずどこかで感じたことがあるだろう閉塞感と都会(的なもの・人)への憧れ、この街で生きていくために手放さなければならないもの、手にしなきゃいけないもの、つい頼って(依頼して)しまうもの。
地方から都会に出て、再び戻ってきた我が身にも、心にしみるものがありました。頼れる場所がある、頼れる人がいる、それがけっして消極的な理由でなく、自ら選びとったものである。それがあることが自分を生かしてくれるのだと生きる希望になっているのだと思わされました。

 

ジャック鷲津駅前ブック館  山本幹子さん
人生って本当、ままならない。でもいくつものよるべにない夜を積み重ねながら過ごしていく先にほんの少しでも光があって、手の届くところに触れられる温もりがあるならば、生きていくこともそんなに悪くないんじゃないかと思う。
読んでいてきゅうきゅう胸がしめるけられ、苦しくもなるけれど、その描写に嘘はなく丁寧に現実を切り取って描かれているから作中差し込む一筋の光が希望になるのだろう。
明日からまた前を向いて一歩ずつ進んで行こうと思った。

 

くまざわ書店南千住店  阿久津 武信さん
たとえ、お互いの立場が変わってしまったとしても一生懸命にいきているという事実さえあればお互いを想う気持ちは変わらない。

 

精文館書店 谷本 直紀さん
生きること、人を愛することに迷い、それでも日常を生きていかなければならない現実が淡々と描かれたいて、窪さんの白眉の一作だと思います。
度々描かれる樹海は、日奈の現実の迷宮で、その迷宮から救ってくれるのは海斗の優しさです。最終章で、ほっとさせてくれる物語の結末に何となく救われました。

 

勝木書店KaBoS大桑店 海東 正晴さん
大変楽しく(ちょっと違うかな)読ませていただきました。
登場人物、それぞれがかかえる苦悩やジジレンマ。ただ、彼らは確実に前に進もうとするし、自分の感情や思いに実に素直に行動する。考えるばかりで、なかなか行動に移せない自分にとっては、実にうらやましい限りだ。
介護現場など現代社会が内包する問題を背景に実に繊細な描写で描かれていますね。官能的なシーンまでもが女性らしい感性で描かれていて、とても新鮮でした。

 

谷島屋富士宮店 柴田 昌紀さん
このような機会をいただかなければ、自ら手に取らないタイプの小説だったので、2度3度読み返しました。これを、パッピーエンドと言っていいのか、僕にはわかりません。ですが、とても腑に落ちると言いますか、何が良くて、何が悪い。ではなく、人と人との関わりの中で、自ずと浮かび上がる結末に、彼らは今後、幸せを見つけながら強く生きていけるのだと感じました。
明るい場面が溢れているわけではないのに、なんて素敵な物語なのだ!と。誰にでも起こり得る日常と、誰かと共振する難しさを、こうも上手く表現されると、続きを読みたくなってしまいます。
ふとした時、タイトルが頭を過ぎるのも、この物語が自分に溶け込んでいるからかもしれません。
誰かの心に必ず響くだろうこの小説を、是非多くの方に手に取ってほしいと思います。


<イベントのお知らせ>
窪美澄 × 前野健太トークイベント
『じっと手を見る』刊行記念
「帰る場所、好きな人、誰かと生きること」

日程 2018年5月8日 (火)
時間 19:00〜20:30(開場 18:30〜)
料金 1,350円(税込)
定員 110名様
会場 青山ブックセンター 大教室

お申し込みは、下記をご覧ください。
青山ブックセンターHP

 

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