神奈川県は相模湖の近くにある陣馬山(じんばさん)に登りました。
 標高は855m。
 前回登ったのは、埼玉県は飯能にある天覧山、標高195m。
 一気に標高があがりましたよ。

 都内を朝7時に車で出発。中央自動車道をブーンと走ります。
 助手席に座っているのは、登山の相棒、自らをカッパと名乗る人間です。地元名古屋からの友人であるカッパは、地図が読みたい女。地図を広げて「あっちだ!」「こっちだ!」と指図したいのに、カーナビに仕事をとられ、ふてくされて座っています。

 カーナビは、相模湖インターチェンジから約15分ほどの「陣馬の湯」に私たちをいざなってくれました。こちらにある旅館「陣渓園」さんに車を停めることになっています。
 到着して旅館の方にごあいさつ。リュックを背負い、カッパが「あっちだ!」と指す道を歩きはじめました。沢ぞいのおだやかな道を、犬に吠えられながら進んでいくと、あらら、行き止まり。引き返します。また吠えられます。吠えられつづけます。
 歩きはじめにトイレがあったのですが、その前に案内板が立っていて、「こっちだ!」とちゃんと登山道を指しています。
 無駄に犬に吠えられけり。

 正しい山道「奈良子尾根コース」を登りはじめると、いきなりけっこうな上り坂。
 ああ、きつい。しんどい。名古屋弁でいうところの、えらい。100m級の山に登っていたので忘れていましたが、そういえば、登山って、体力がいるんでした。
 こうなってから思うのは、なぜ私はエスカレーターなんかにのっているのだ、ということ。ふだんから階段を使えば、足腰は自然に鍛えられるのです。天皇皇后両陛下がエスカレーターを使われない、というのを聞いて感動し、私もそうしよう、と思ったではないか。なぜ今の今まですっかり忘れていたのだ。もうエスカレーターは使うまい。二度と。いや、うそ。ちょっとは使いたい。

 ひらすら無言で登ること1時間半。奈良子峠を越えたあたりからなだらかになり、おしゃべりしながら歩けるくらいになってきました。
 しゃべるといっても、話題はもっぱら昨今の膀胱事情について。前はそんなことなかったのに、今は山に入る前にトイレの場所をくまなくチェックしないと不安。トイレにいっても、次まで持つか不安。もよおしてしまったら後にひけなくなる不安。
 そんな膀胱に不安を持つ我々を、ときどき富士山が顔を出し、応援してくれます。うん、ありがとう、ふじさん、私たち、もうちょっとがんばるよ。

 ちょうどお昼どきに山頂に到着しました。
 広い草原、ばーん。360度の青空、ぱーん。富士山、どーん。
 そしてそして、陣馬山名物の、白い馬のモニュメントが、ずしーん。
 この馬は、富士山に向かっていなないているそうです。耳を済ますと、聞こえてくるような気がします。「ふじさーん!!」。

 テーブルと椅子もたくさん用意されていて、みなさんおのおのバーナーに火をつけ、楽しんでらっしゃいます。山小屋では、ビールやおでんやけんちん汁を売っているので、手ぶらで来ても大丈夫そう。

 きょうのお昼ごはんの担当は、おかず:カッパ、ライス:山田。
 前回、「はんのうではんごう」と思いつき、行き当たりばったりで初めての飯ごうを体験した私。その経験をふまえ、今回はお米を水にさらしてから、ジップロックに入れて持ってきました。登っているうちに水を含んで、ふっくら炊き上がるのではないかという魂胆です。
 結果、大成功。こんなところにだけ知恵が働いてしまう悲しみ。
 カッパは、ビビンバをつくってくれました。オン・温泉卵。炊きたてごはんにビビンバ、冷えたオールフリー。山よ、米よ、肉よ、友よ、ありがとう。

 山頂で2時間たっぷり楽しんで、下山開始です。
 栃谷尾根コースという、階段がひたすらつづく道をくだります。これ登ったら、名古屋弁でいうところの、どえらいえらいやつ。
 ふもとに近づくと、小さな茶畑や野菜の無人販売があったりして、のどかな里山の風景になってきました。
 無人販売に緑色の何かがあったので、ロマ、ロマ、えーっとなんだっけ、ほら、カリフラワーの親戚みたいな、ほらあの、ロマネなんとか、なんて言ってたら、でっかいフキノトウでした。3月はじめの里山ですもの、そりゃそうだ。

 道端に、おじぞうさんがいたので、ごあいさつ。
 赤い毛糸の帽子によだれかけ、そしてなぜか、長袖のフリースのジャケットを羽織っています。それもユニクロとかじゃなく、立派なアウトドアブランドの。
 フリース地蔵。
「寒かろう」と、どなたかが着せたのでしょうか。恩返しされちゃいますよ。玄関先に置かれちゃいますよ、フリース。

 車を停めた旅館「陣渓園」に戻ってきました。
 その日は宿泊する人もおらず、お風呂に入るのは私たちだけだったようで、男湯のほうに案内してくださいました。
 岩風呂、貸し切り。やったー。強力ジェットでふくらはぎをほぐします。

 お風呂をあがると、ロビーに、ポットと急須と緑茶を用意してくださっていました。うれしいサービス。
 ロビーの壁には、きゃりーぱみゅぱみゅさんの書が飾ってあります。大変立派な文字で「犬に金棒」。ん。どうしたのかな。
 その近くには、大きな鹿の剥製があり、気球の模型のようなものが浮いています。鹿と気球ときゃりーぱみゅぱみゅ。なかなかシュールな一枚絵です。

 ローカルスーパーを愛する私たちは、旅館の奥さんに、近所にスーパーがないかたずねました。
「都会のほうがいいものあると思いますけれど……」なんて謙遜されながら、スーパーの場所を教えてくださいました。
 奥さんが「あっちだ!」という方へ車を走らせ「まちの市場 スーパーまつば」へ。ほら、かわいいもの、ロゴが、規模が、品揃えが。

 野菜売り場にあったのは、ロマネスコ。そうそう、ロマネスコ!
 これも何かのご縁と買って帰りました。ゆでて食べました。おいしかったです。

*きょうの昭和*発泡危険! 誰が誰に? 鳥が身を挺して私たちを守ってくれているようにも見えます。

*きょうのごはん*山田ライスとカッパビビンバ。お米がどんどん冷めてゆくので、スピード命。

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山田マチ『ひとり暮しの手帖』

これは、ひとり暮しの山田の手帖です。

実家をはなれて、およそ20年。
これまでも、きっとこれからも、ひとり暮し。
ここには、ひとり暮しのいろいろなことを書きつけます。
このなかのどれかひとつくらいは、あなたの心に届くかもしれない。
いや、ぜんぜん届かないかもしれない。
そんなふうな、
これは、ひとり暮しの山田の手帖です。